IT、衣料、食品、車・・・・・。

 

どの世界にも、業界に特化した情報を発信するメディアがある。専門紙、業界紙と呼ばれるのがそれで、IT業界向けのメディアのように、オンラインで発信する専門メディアも増えている。新聞、テレビ、一般雑誌とは異なり、対象とする読者は限定されており、発行部数も少なく、記者の数も決して多くはない。書店やキオスクで手にする機会は皆無に近い。

 

IT業界の記者から、企業のマーケティング部に転職したN氏が、自ら関わってきた業界メディアをこう述懐する。

 

「8年ほど在籍していたが、辞める2年くらい前から、先行きが厳しいと感じていた。記事のノルマを処理することが優先され、時間をかけて、じっくり取材をする環境ではなかった。もちろん、大きな特集などは無理だった」。

 

記者も少なく、編集タイアップなどの営業が優先される取材も度々だったという。専門・業界メディア特有の、記事広告が優先されてしまう。

 

「広告がとれないので自ずと、編集とのタイアップ記事で、売上を確保しないといけない。数字(売上)を重視していくと、メディアとしての本来のパワーがどんどん下がってしまう」。

 

業界紙を発行する別の記者は、自社の現状をこう説明する。

「スタッフが足りないので、記者が編集レイアウトも担当する。自ずと取材する時間が制約されるので、50~60%はブレスリリースを記事化して、紙面を埋めている。正直、記事のクオリティーは低くなる」。

 

話をN氏に戻す。

 

転職の際に、他のメディアへの再就職も考えたが、将来への不安がよぎったという。純粋な編集記事にこだわっていたN氏には、企業とのタイアップ記事を手がけるのに、少なからず抵抗もあったようだ。

 

「タイアップ記事は好きではなかったが、同時に、純粋な記事にも関わらず、広告主を意識して書かざるを得ないこともあった。それに記者発表会の内容をだらだらと書くようなこともしたくなかった」。

 

記者が足りなく、締切を優先するため、内容の粗い記事になることも屡だった。

 

だが、否定的なことばかりではない。

「専門メディアとはいえ、一目おかれ、読者や広告主に迎合せず、きちんとした記事を発信するメディアもある。取材に時間をかけ、深く濃い、内容のいい記事を書く記者もいる」と。

 

メディアはどうしても、広告収入に依存せざるを得ない。ましてや業界メディアとなれば、広告収入への依存度は高くなる。否が応でも、収益優先になってしまう。すべての専門メディアが、同氏が指摘するような状況ではないだろうが、淘汰されていくのは防ぎようがないようだ。