企業の幹部にマスコミ対応のレクチャーをする機会があった。私が基本的な内容を、ゲストスピーカーには現役の編集長・Y氏を招いた。Y氏は本人の経験を交え、主に不祥事、事件や事故を起こした企業のマスコミ対応に関して持論を交えて解説した。その一部を、披露する。

 

不祥事、事故や事件が発生した際に、事前に準備するのが「公式見解」である。公式見解は、ポジションペーパー、統一見解、声明文、ステートメントなどとも呼ばれている。①事実(事件・事故) ②経過と現状 ③原因 ④対策(解決策) ⑤見解 の5つの要素で構成されている。何が起こって、どういう現状で、原因は何で、どういう対策が必要か、そして見解を示したものである。これらをしっかり説明し、対処すれば、大きな間違いを起こすことはない。

 

しかし記者によって、また新聞、雑誌などのメディアによっては、注目する点が異なる。事実や経過に興味をもつ記者がいれば、原因や対策に関心を向ける記者もいる。さらに経済部と社会部でも、フォーカスする点が大きく異なる。

 

経済部の記者は「操業停止期間」「被害総額」「株価の影響」「今後の影響」といった、企業の経済活動を視ている。いっぽう社会部の記者は、どちらかというとトップの責任を追及する傾向にある。「社長はいつ、この問題を知ったのか」「この事態をどう思っているのか」あるいは「責任をどうとるのか」といった質問が浴びせられる。

 

経済部の記者は一つの企業、業界を、3年なり5年なりの時間にわたり取材し続けているので、基礎知識がある。社会部の記者は、当該企業のことはまったく知らず、すべての事実が初めてとなる。経済部と社会部では事件の扱い方は当然、違ってくるし、認識も異なる、ということを十分、理解すべきである。

 

会見やインタビューなりで公式見解を発表する際に注意すべき点がある。会見場などでは当然、目の前に記者がおり、記者に語り、記者の質問に答えることになる。意識は眼前の記者にいってしまうのが常人である。だが意識すべきは記者ではなく、記者の向うにいる読者・視聴者である。読者・視聴者にメッセージを送るというスタンスが重要である。

 

茶髪でスーツを着ていない若い記者がいれば、意地の悪い質問、難問をぶつけてくる記者もいる。不愉快にもなるだろうが、そこはぐっと我慢して、顔には出さず、記者の後ろには1億人の読者・視聴者がいると思って対応する。新聞であれば一面に書かれてしまうこともある。最終的に判断するのは読者・視聴者あると、認識することが肝要である。

 

レクチャーの最後にY氏は以下のようなコメントを残した。

 

「記者会見でトップが泣く。これは、泣いた者勝ちです。取材する側も、攻め手が鈍ります。ただ、トップの泣いている姿はYouTubeにもあがるように、延々と映像が流れます。それを覚悟していれば、社長が涙を流して詫びる、というのは、決して悪くはないと思います。メディア対応的には勝ちです」。