「私自身は、取材拒否をされるととても嬉しかった。つまり、何を書いても企業側から怒られない、と信じていたからだ。『お手柔らかに』といった挨拶がくることはあったが、クレームや怒りの電話など、一切の文句はなかった」。
こう語るのは、編集長という立場上、めっきり記事を書くことの少なくなったT氏。記者時代は、社会部系の事件も含め、企業のネガティブな話題も数多く取材した。取材拒否を受けることもあった同氏が、広報担当者の取材対応・ブリーフィングの巧拙を語ってくれた。
広報担当者に取材を断わられれば、関係者など周辺取材をして記事を書いても、確かに取材拒否をしたわけだから、当の企業は非難・批判は言い難いといったところだ。
いっぽう困るのは、広報側から「社長は出せません」「当時者には取材できません」「広報対応はします」といった類の対応が、微妙に難しいとT氏は言う。いざ、広報担当者が取材を受ける段になると「どういったトーンで記事を書くのか」と聞いてくるそうだ。あるいは「発言だけでもみせてほしい」といった打診もあり、記者にとっては悩ましい対応とのこと。
では、良くできた広報担当者はどんな対応をするのか。
「上手な人は、“レクチャー”と称して、意見交換をして欲しいと提案してくる。社長を取材するにあたり、業界はいまこうなっている、当社はこういう課題を抱えているなど、基本的なことを説明し、取材して欲しいのはこういった点です、と提示してくる。ついつい、話にひきずられてしまい、ペンが鈍る」と、自嘲気味に話す。
もうひとつ、記者にとってはとても有り難い取材対応を語ってくれた。
バブル崩壊後、ゼネコンの取材に奔走していたころ、ゼネコンのメインバンクを取材したときのことである。取材対応をしたのは広報担当者ではなく、ゼネコン業界に詳しい銀行マンであった。
「まず、ゼネコン業界を理解させるために、業界の全体像を解説。もちろん喋っていけないことは当然、口にしないが、ちょっとだけおもしろい情報を提供する。要は、業界関係者が読むと『この記事はそれなりに取材をして書かれている』とわかるヒントをくれる。メディアを喜ばせる手法です」と褒めている。
満足感のある取材対応でかつ、興味深い取材原稿が書ける情報を与える、これもまた、広報担当が見習うべき取材対応のひとつである。
内容の好悪に関わらず、最低限、広報担当者だけは取材に応じたほういい、とはT氏の助言である。