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プレス対応とメディアリレーション

「メディアは悪いことを書く、という前提でつきあっている広報担当者は、上手いプレス対応をする。とりわけ、過去に不祥事やトラブルを経験した企業の広報対応は、いろんな意味でノウハウが蓄積されており、メディアというものをよくわかっている」。

 

20年以上にわたり企業を取材し、現在、編集長の任にあるM氏は断言する。

 

不祥事など経験しないにこしたことはないが、人間、成功よりも失敗から学ぶことが多いのだ。

プレス対応の上手さを、M氏はこう語っている。

 

「悪いことをいかに書かせないか。メディアから投げかけられた取材テーマに対して、自分たちの意図をもって取材対象者を選定し、インタビューの方向さえもコントロールしてしまう」。

 

優秀な広報パーソンは、メディアの意図を理解し、記事の仕上がりをもイメージできる、という。いっぽう下手な広報は、細かいことまでメディアに確認し、すべて調整から入ってくるので、時間もかかりロスが多くなる、と指摘する。

 

望み通りにお膳立てされ、あとは敷かれたレールの上を走るだけであれば、確かに楽な取材ができ、メディアにとっては至れり尽くせりである。

 

消費財を扱う企業をウォッチングしている記者も、似たような感想を漏らしている。

 

「日用品を扱っているメーカーの広報は、常に危機管理を意識しているせいか、プレス慣れしていて、対応が上手です。それに比べてB to Bの商材を扱う企業は、一般消費者と遠い位置にあるせいか、どうもプレス対応がぎこちないというか、拙いですね」。

 

M氏はプレス対応とともに、メディアリレーションの大切さも説く。

 

「取り上げられる可能性が低くても、メディアリレーションは継続しかつ、広くしたほうがいい。長い目で見て必ずメリットになる」。危機管理などでは、プラスに働くケースもあるという。

 

同氏の編集部にはIT企業からのブレスリリースや記者発表会の案内などは、ほとんど届かないという。ITの専門メディアでないことも理由のひとつとだが、広報側が自社にメリットがない、取り上げてもらえない、といった自己規制が働いているのではないか。

 

心当たりのある広報パーソンは、鼻から諦めずに一度、試してはどうか。ボクシングのジャブではないが、続けることがのちのち効いてくる。やはり、継続は力なり、である。

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新任広報部長の話

「広報部への異動がおりたときは、すごく嬉しかった」。

 

こう語るのは、この4月に広報部長に就任したY女史である。

 

中途採用から10年。一貫して事業部でのマーケティング畑に身を置いてきた彼女がなぜ、広報部への異動を喜んで受け入れたのか。

 

「人にモノを勧めて理解してもらう、という行為が好きなんです。自画自賛ではないですが、当社は良い製品を数多くもっています。NDA(秘密保持契約)の関係であまり公表できませんが、優れた技術もいっぱいあります。それらを、世の中へ知らしめるつまり、プロモーションできる立場になれたのが、最高です」と、天職を手にしたような口ぶりである。

 

BtoB向けの製品を扱う同社は、業界では実績・知名度もあり、それなりの評価がある。いっぽう業界外に目を向けると、まだまだ認知度は低い。一般の人はもちろん、個人投資家や新聞、雑誌、テレビといったメディアにも知られていない。そんな彼女に、自社の広報活動はどう映っていたのか。

 

「これまで広報の仕事を見ていて、何をやっているのか、というのが正直な印象でした。プレスリリースを配信するぐらいしか記憶がないです」と。

 

では、これからどう広報に取り組んでいくのか。

 

「まずはメディアリレーションの構築です。記者の関心・興味のあるテーマやニュースなどを調べ、メディアに適した情報を提供して、記者との関係づくりから手をつけていきます。一般の人たちに当社が何をしている会社なのかを知ってもらうために、小学生を対象にしたイベントを行うなど、これまでやっていないことにチャレンジします」。

 

この他にも、新製品の記者発表会さらに社長インタビューなど、決して派手さはないが、地に足のついた広報活動をすすめていきたいと抱負を語っている。

 

彼女を広報部長に任命した社長は自社の広報をどうみているのか。

 

「トップはIRへの認識・理解は高いですが、広報についてはまだまだですね。Facebookの立ち上げを打診したのですが、遊びだろう、の一言で一蹴されましたから」。

 

しかし、Y女史はいたって前向きである。実績を積んで、社長に広報の重要性を説いていくと、元気がいい。

 

「うち(会社)の広報かわったよね、と言われたい。そのためにも開かれた広報にしたいです。やりたいこと、やれることは山ほどあるので、前に進むのみです」。

 

広報部とはいえ、彼女と部下の二人だけである。

 

一年後、彼女と会社がどうかわっているのか、楽しみである。

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記者に喜ばれるプレス対応ができているか

プレス対応は広報担当者の大事な仕事のひとつである。記者への対応しだいで、本人はもちろん、自社への印象も大きくかわってくる。

 

記者歴8年のO氏自身がうけた取材依頼への対応を振り返り、こう語っている。

 

「取材申込の電話をし、メールで企画書を送って一週間しても返事がこない。催促しても梨の礫。結局、取材はできませんでした。職業人の素養以前に、社会人としての基本ができていない。まったく話になりません」。以降、同社への関心も減り、取材をしていないという。

 

さまざまな業種の企業を取材するE氏にとって、どんなメディア対応がいいのか。

 

「まずは、迅速な対応ですね。電話取材ではその場で応える。わからなければ、確認して折り返し同日中に回答してくれるなど、的確かつ要領よく。それと社内調整力です。こちらも悪いのですが、漠然としたテーマでインタビューを依頼することがあります。意図を組んで、最適な人を準備してくれると、非常助かります。結果、いい内容の記事になります」。

 

ある記者はこうとも言う。

 

「メディアの性格や位置づけ、どんなメンバーがメディアをつくっているのかなど、内部事情に踏み込んでいるのも一つかなと。ビジネス上だけではなく、どれだけ相手の懐に入り込んで、本音ベースの話しができる関係を築けているかでしょうね」。

 

相手の懐に入るには、それなりに時間を必要とする。ビジネスとプライベートの間の微妙なバランスをつくり、保つには、コミュニケーション以上に人間性もからんでくる気がする。

 

一方、新聞、テレビといった旧来の大手メディアしか相手になしない企業も多く、メディア格差を嘆く記者もいる。

「言葉は悪いですが、昔から付き合いのある新聞やテレビにしか情報を提供しない大手企業もあります。記者発表会の通知を送らないことも多々あります。某IT企業は、フリーランスの取材は受けないし、報道資料も提供しません」。

 

「こういった対応がひょっとして、業績にもつながってくるのではないか・・・」と、同記者は懐疑的に語っている。

 

ぞんざいなプレス対応をしていると、いずれツケが回ってくる。自社が不祥事を起こそうものなら、必要以上に叩かれるやもしれない。

 

特別扱いはする必要はないが、広報の仕事に携わっている以上、プレスへの「公平・公正」な対応を心がけたいものである。

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プレスとの接点をふやす情報提供

中堅・中小企業の広報担当者にプレス対応の業務について聞くと、「プレスリリースの配信」を第一声にする人が多い。プレスリリースの配信は確かに、大事な広報業務の一つである。では他にはどんな施策をしているのか尋ねると、考え込むケースが間間ある。

 

数か月前に、初めてプレスキャラバンを行ったIT企業の広報担当者が、その効果を語っている。

 

「新しいサービスに関するプレスリリースとプレゼン資料を持参して記者を尋ね、新サービスの説明をした。プレスキャラバンをしたことがなかったので、PR代理店に依頼し、プレスリリースの作成、記者への交渉、同行などを依頼しました。産業紙をはじめ、主だったIT系のオンラインメディアに取り上げてもらい、ホームページへのアクセスが2日間で600件、電話の問い合わせも30件近くありました」。

 

社長をはじめ社内での評価も高く、今後も機会があれば、プレスキャラバンをやりたい、と同氏は気をよくしている。記事を広告換算したところ約1000万円近くに達し、プレスキャラバンに費やした金額からして、非常に高い費用対効果になったそうだ。

 

 

プレスリリースは記事化される確率は低い。1日に数百件のプレスリリースが送られてくるので、競争率は非常に高くなる。一方プレスキャラバンは、記者が「ノー」と言わなければ確実にプレスリリースは読まれ、取り上げられる可能性はプレリリースの配信よりはるかに高い。もちろん、100%掲載される保証はないが。ただ手間暇がかかるのが難点といえば難点ではある。

 

プレスキャラバンは時間を必要とするため、記者発表会で対応するケースもあるが、自社の知名度、メディアとのリレーションなどを考慮し、記者の集客力が弱いと判断した際には、他の方法でメディアでの露出を検討したほうがいいだろう。

 

記者発表会を実施して出席が少ないと最悪である。ましてや同日の同じ時間帯に大手の同業社が発表会を行うものなら、記者の出席率はかなり下がってしまう。必然的に記事の掲載はかなり厳しくなる。

 

新しいニュースもなく、トップが話すようなものもない、でも、少しでも自社のことを取り上げてもらいたい、という疑問にはどう応えるか。ある製造業のケースである。

 

「プレスラウンドテーブルというかプレスセミナーというか、記者に情報を提供する機会を設けています。勉強会といっては記者に失礼ですが、当社の事業に関連した市場動向や消費者のトレンドあるいは、製品・技術動向さらに、将来予測などを解説します。講師役はもちろん、社員です」と、広報担当者は得意げに説明する。

 

記事化される度合いは低いが、メディアリレーションを築く一助としておこなっており、出席した記者には喜ばれているそうだ。

 

グローバルカンパニー、大企業ではないので、中堅・中小企業から日々、新しいニュースがでてくるはずがない。

 

広報担当者はニュースのないことを嘆くより、いい意味で情報(ニュース)を創りだす発想に切り替えたほうがよい。新しい発見に出遭えるかもしれない。

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